安楽庵策伝『醒睡笑』の笑いと落語の笑い

落語の祖とも言われる僧侶・安楽庵策伝がまとめた『醒睡笑』を初めて読んだとき、これは普段寄席や録音で聴いて面白いなと思っている落語と、似ているけれども何かが少し違うとも感じた。

確かに「平林」の原話など、現代でも楽しまれる落語の原初的な姿がある。その意味では、現代の落語に通じる面白さがある。

ところが『醒睡笑』で笑われるのは身分の低い者、間の抜けた者である。僕がこの本を読んで、落語とは何かが違うと感じた点はここだ。『醒睡笑』は、安楽庵策伝が、京都所司代・板倉重宗に献上した本である。いわば特権的な地位にいた人物を笑わせるために作られている。上の者が下の者を笑うという構図になるのも不思議ではない。

もちろん現代の落語でも間の抜けた者、身分の低い者が登場し、滑稽な振る舞いをするが、むしろ落語の場合、そうした者たちの振る舞いが、秩序に亀裂を入れてしまうような瞬間が楽しい。

秩序から外れていることの愚かさを笑うのか、それとも秩序にちょっと亀裂を入れる快感を楽しむのか。『醒睡笑』の笑いは前者の性格を持っている。他方、落語は後者の性格が強いだろう。似たような内容の話でも、どこに向けて話されるのか、どんな場で話されるのかによって全く異なる性格を持つものなのだな、と思う。